2013年8月12日月曜日

ヘブン

川上未映子

善悪や強弱といった若者の新境地、と宣伝されていたため、興味を持って購入。

内部をまとめるために、外部に敵を作る。国際社会において、多数派がとりやすい手段である。背景には内部の矛盾や恐怖を、外部の主体に見出すことで内部矛盾をごまかすとでもいえようか。

内部と外部の関係は国際社会における主体間の争い以外の場面でも見出せる。近年の若者は自分とは何かという複雑な問いに苦しんでいることが多い。自分を理解するには、自分の外を見ると良いという。相対的に自分を感じることで自分を作り上げて行く。

しかしそれは相対化された環境においての自分にすぎない。教育の場でのいじめを題材に、自我とは何か、善悪とは何か、若者が自分なりに理解していく過程を描く。

民王

池井戸潤

総理大臣の父とその息子が入れ替わる話。

普段知る事のない親子それぞれの思いを双方が理解するというよくありがちなストーリー。

2013年7月27日土曜日

娼年

石田衣良

バーでアルバイトをするリョウは、ある日突然訪れた男性クラブのオーナーに誘われ、
男娼として働き始める。

男娼として働くうちに、女性が見せる多様な快楽を目の当たりする。
自分の見た事がない世界をさらに見たいという欲望から、仕事を続ける事になるリョウの前に、大学の友人であるメグミが現れ、物語は終盤へと向かって行く。

村上春樹を感じさせた。
リョウは、性などに対して無関心であるが、なぜか色々とうまく行く。
あまりにも現実離れした展開に笑ってしまうこともあったが、
これが自分の知らない現実のどこかでは、本当に起こっている話であるのかもしれないと思うと、リョウのようにもっと知りたいという感覚を覚える。

そもそも現実離れした、という場合の現実とは、自らがそれまで生きてきた人生経験に基づいている。したがって各々が考える現実には、だいぶ個人差がある場合が多いと言える。男娼とは言わないまでも、さらに多くの事を若いうちに経験しておきたいと思わせるような一冊だった。


ナショナリズムの克服

姜尚中
森巣博

上記の2人が日本のナショナリズムや民族意識などについて対談した内容をまとめた一冊。

ある社会の内部の矛盾を外部化することで、その社会が存続していくという考え方に共感を覚えた。

これは民族という要素だけではなく、国際関係にも言える事だが、都合の悪い事があれば、すぐに外部化する点は特に日本人において顕著であると感じた。

日本人は、その領域の内側と外側を区別するために、無意識に境界線を引いてしまいがちである。


物語 タイの歴史

柿崎一郎 著

東南アジアの雰囲気が好きな日本人は多いと思う。
特に若者にとっては、物価や治安の面から、旅行しやすい地域でもある。
また、個人に限らず多くの企業が東南アジア地域に進出をしている。

単なる旅行でも目的地の歴史や情勢を知ってから行くとさらに楽しめるものだ。
タイを旅行するにあたって、本書を購入した。

本書で強調されているタイの姿とは、世渡り上手な姿である。
特に13世紀以降のタイ(それに相当する王朝)はその世渡り上手さを生かして、
自国の発展と安全保障を確立してきたと言える。

特に、フランスとイギリスの緩衝地帯として存在していた点などを見ても、他の諸国家の力をうまく利用してきた事がうかがえる。

後半では、タクシン政権の話を中心とした現代のタイを書いている。
世界銀行が言うような、中所得国の罠に嵌りつつあることを感じさせた。



2013年7月4日木曜日

『23分間の奇跡』

ジェームズ・クラベル
青島幸男 訳

The Children's story......but not just for children

そんな言葉が表紙に書いてある。

ストーリーは単純だ。
幼い児童のクラスに新たに担任の先生として赴任した。
これまで子どもたちが教わっていた教師とは全く違う雰囲気を醸し出し、違った意見を述べる先生がやってくる。
新しい先生によって、子どもたちの考え方は、たった23分間で変わってしまうという教育の持つ恐ろしい力を書いたものだ。

Amazonなどのレビューでは、大人も考えるべき、教育の問題!などと、書いている人々が多くいた。確かにそうなのだが、これは教育の場だけに当てはまることではない。

大人でさえも、日常のあらゆる場面でバイアスにかかっている。最近で言えば、反日デモを煽ったマスメディアが例として挙げられるだろう。
これまで持っていた考えを簡単に変えられてしまい、加えて自分の認識が変わっていることに気づかない人すらいる。

教育の問題に限らず、世の中のあらゆる場面で、洗脳に近いことが起きている。
その意味で私はnot just for children という言葉を受け止めたいと思った。

2013年7月3日水曜日

『こんな日本をつくりたい』

石破茂×宇野常寛

日本のカレーをインド人に食べさせる映像があった。
インド人はうまいといいながらカレーを食べていた。
本場の味を取り入れつつ、新たな風を吹き込んで発展させていく日本のスタイルである。

石破カレーというものがある、その名の通り、自民党の石破茂氏が党大会の前に、自民党本部で配布するカレーのことだ。大のカレー好きである石破さんは学生時代、毎日のようにカレーを食べていたという。

その石破さんと注目の若手論客である宇野氏の対談を収録した一冊である。
生まれた時代も、育った環境も違う両者がどのような対談をするのか興味深かったため、手に取った。

社会保障、雇用、農政、国防、地方自治、選挙制度など、対談の内容は多岐にわたる。地元選挙区ではいわゆる農業票が強い石破さんだが、TPPに参加し、農業を外に広げていく考えを持っているという点は、若い世代(一纏めにできるないとは思うが)の意見と共通する印象を受けた。

一方で、宇野氏の意見などと食い違うこともあった。それは至極当然のことである。

若い世代と年配の世代、世代間格差が問題となっている今だからこそ、世代を超えた対話が必要であるように感じた。

お互いの意見を尊重し、違った意見の中にもいい点を見つけて取り込んで前進していく。
まさに外国の文化を取り入れて発展していく料理の世界のように、今後の政治に期待したいものである。